光のもとでⅠ
 なのに秋兄は急いてことを進めようとした。
 その結果がキスマークであり、翠の自傷行為。
 果てには、秋兄自体がこの様だ。
 何やってるんだか……。
 まさかとは思うけど、俺の存在が気になったから――?
 それこそありえない。
 翠を見ていれば、翠が誰を見ているのかなんて一目瞭然だ。
 秋兄、秋兄は翠の何を見てたんだよ……。

 手術が終わるのを待つ気も失せ、観覧室を出た。
 またロビーでも通って柏木桜に出くわすのも面倒で、裏口に向かうと、そこには柏木親子が車に乗り込むところだった。
 すぐ近くの処置室のカーテンに隠れたが、製薬会社の社長が裏口を使うとは……。
 本当に何かがあるような気がしてならない。
 しかも、あの女まだ泣いていたし……。
 それをかばうようにして歩いていた社長。
 ……これ、今夜には父さんに苦情の電話が入るのだろうか。
 しかし、最初に確約を破ったのは向こうだ。
 俺たちの接触は家庭教師の日のみ。
 日時場所は俺の都合を一方的に通してもらえることになっていたし、その予定を連絡し合うのは親であり、子ではない。
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