光のもとでⅠ
 秋兄はなんでもそつなくこなす人間だが、意外と努力家でもある。
 部活から帰ってきても、花が咲き乱れる庭で延々と射法八節を繰り返しては逆行の練習をしていた。
 そして、終わりには必ずストレッチ。
 五歳くらいになったとき、一緒になってストレッチをやるようになり、見よう見まねで射法八節を覚えた。
 その頃を懐かしいと思う。
 姉さんと兄さん、秋兄に海斗、俺と母さん。
 祖母が生きていた頃は、祖母もその中にいた。
 祖母が亡くなってからは祖父が加わるようになった。
 そして、徐々に紅子さんが加わるようになり、秋兄が高校に上がる頃にはうちへ帰って来る回数がだいぶ減った。
 それでも、海斗は学校から帰ると当たり前のようにうちにかばんを置いて遊びに出かけてたな。
 考えてみれば、大勢で過ごした時間はかけがえのないものとも言えるけど、それが秋兄や海斗にとって幸せな時間だったのかは不明だ。
 海斗にいたっては、母親がふたりいるのが普通だと思っていたくらいだ。
 藤宮という家は本当に煩わしい家だが、せめてこういう部分くらいは普通であってもいいんじゃないか、と思う。
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