光のもとでⅠ
 安心なさい、ね……。
 確かに容態は気になっていたが、手術に関してはなんの心配もしてはいなかった。
 父さんのもとには全国各地から胃がん患者が訪れる。ゆえに、平日土日問わず、手術がひっきりなしに入っていて、秋兄の手術予定を割り込ませるのには骨が折れたはず。
 輸血パックは昨日の夕方には届いていたそうだから、時間さえあれば昨日のうちに手術はできたはずだ。
 それができなかったのはスタッフが揃わなかったからに違いない。
 むしろ、心配だったのは秋兄の精神状態で――。
 九歳も年上なんだけど、秋兄は人に弱みを見せられない人間だから。
 具合が悪いことなんて自分から言ったためしがない。
 だいたいが仕事部屋で熱を出して倒れているか、家の寝室で寝たまま。
 年に数回あるかないか、もともとが頑丈なつくりだからあえてひどい心配はしないけど……。
 二日音沙汰なければ見にいく。それで十分。
 下手すれば死んだように倒れて睡眠をとるだけで翌日には治っていたりする。
 そんな人間が胃潰瘍で吐血したんだ。
< 1,145 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop