光のもとでⅠ
「ここの部屋の持ち主の母親がピアニストだったんだ」
 海斗の説明に納得する。
 それなら理解できなくもない。
 そして、そのピアノと同じフロアに翠葉の家で見たアイリッシュハープが置かれていた。
「翠葉にとったら環境において問題はなさそうね」
 以前、翠葉の家に行ったときに思ったこと。
 この子には音楽が必要なのだ、と……。
 きれいに収納された楽譜はどれもが使いこまれたもので、その冊数は目を瞠るものがあった。
 そして、ハープの演奏を聴いたとき、見たこともない表情をする翠葉を目の当たりにした。
 ごく自然に穏やかに笑むその姿を――。
 先日のピアノリサイタルでは感情をすべて注ぎ込むような演奏をしていた。
 感情の向かう矛先――それが音を奏でるという行為そのものであることに気づいたのはそのときだった。
 翠葉にとって必要なツールがここにもある。
 そうわかるとどこかほっとした。
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