光のもとでⅠ

「もう帰るんだって？」と、言われた気がしなくもない。
「はい。これ以上遅くなっても翠葉を疲れさせるだけですから」
　そう口にすると、蒼樹さんが目を細めて微笑んだ。
　……すごく貴重な表情を見た気がする。
「じゃ、三人とも送っていくよ」
　言われて少し動揺したものの、ひとつふたつと考えが頭に浮かぶ。
　そんな中、佐野が断りを入れた。
「いや、俺、バスの中で勉強するって決めてるんで」
　意味がわからず佐野を見る。
「俺が駅まで送ったらその分早く帰れないか？」
　蒼樹さんの問いかけに、
「いや、家に帰ったらもう寝たいので……。だから、バスの中だけは勉強しようって決めてるんです。たかだか二十分くらいなものなんですけどね」
　と、苦虫を噛んだような顔で答える。
　佐野は佐野で人の見えないところで努力しているのね……。
「わかった。じゃ、バス停まで乗せていくよ」
　蒼樹さんのその言葉には佐野も頷いた。