光のもとでⅠ
「だから、先輩は何も気負わずとっとと身体を治してください。はい、翠葉の話はここまでっ。仕事の話をしましょう」
「……あぁ」
 こんな覇気のない先輩を見るのは初めてなわけだけど、なんとなくこれが見納めのような気がしなくもない。
 で、この人……なんで輸血しながら翠葉のことや仕事のことを考える余裕があるかなぁ……。
 その時点で絶対に変人決定だと思う。
 胃潰瘍って壮絶に痛いって聞くんだけど……。
 目の前にいる人間からはそれがうかがえない。
 ついつい、聞かなかったことにしようか、と思ってしまうほどだ。
 仕事に必要な資料の件を一時間ほど話すと携帯が鳴った。
「湊さん?」
 ディスプレイに表示される名前に釘付けになる。
 今度こそ翠葉に何かあったのではないか……。
 緊張は指先まで伝わる。
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