光のもとでⅠ
「俺が見つけたときは天使のような顔をしたハッカーだったわけだけど、俺の手元に置くようになってから、精神面の不安定さが目立ってね……。仕事をさせているときは安定してるんだけど、外に連れ出すと途端に露見する。まず、妹と同じくらいの年頃の子や背格好が似ている子を見ると錯乱する。オルゴールの音を聞くと前後不覚に陥る。茶色い四角い木製の箱を見ると必ず手を伸ばす……」
 これは本当に唯の話なんだろうか……。
 俺が普段見ている唯からは想像もできない内容だった。
「さすがに俺にはお手上げで、湊ちゃんに託したよ。で、カウンセラーをつけただけどダメだったって話は前にしただろ? ひどいときは自殺願望すらあったんだ。その頃には藤宮の病院事体がタブーってことが薄々わかっていたから、湊ちゃんの知り合いの精神科医に預けたんだけど、無理に向き合わせようとしたのが悪かったのか、若槻の自殺願望が顕著になった。あの頃は俺も蔵元も仕事どころじゃなかったな……。若槻には俺か蔵元が常についている状態だった。最終的には仕事が精神安定剤になるってことがわかって、俺の側だと接する人間が限られるうえに、俺の職場は学校だから、あらゆる年齢層と関わることができる場所、静さんのもとに置いてもらうことにした」
 そんないきさつがあったのか……。
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