光のもとでⅠ
03～06 Side Tsukasa 05
図書室に戻ると、今までお菓子を摘んでいたメンバーは、今度は写真を見ながら雑談をしているらしい。
そんな時間があるなら帰って勉強すればいいものを……。
「そうそう、司の写真でいいのがあったんだけどさ」
会長から声がかかった。
いつもの俺のポジション。窓際の席に着くと、その写真を見せられる。
ただ、俺がバスケでシュートをしているだけの写真に見えるが……。
「ぶれてますけど」
正直な感想を述べる。と、
「そうだね。でも、これを送ってきたの誰だと思う？」
知るか……。
無言を通すと、
「司の従弟君だよ」
と、朝陽が言う。
……海斗？
「だから何」
訊くと、優太がにやりと笑みを深めた。
なんだ……海斗、何を仕掛けた？
トラップの予感を感じていると、
「これがそのメールよ」
と、隣に座る茜先輩がディスプレイを俺に向けた。
件名：司以外の生徒会メンバーの皆様へ
本文：勝利の女神が釘付けになったシュート。
俺から渡すんじゃつまらないから、
生徒会メンバー経由で翠葉にプレゼント
してあげてください。
で、もう一枚はそのシュートを見た直後の
女神の表情！
どう？ かわいいでしょ？
一枚目撮影：藤宮海斗
二枚目撮影：簾条桃華
添付ファイルはふたつ。
一枚は俺のぶれた写真。もう一枚は言わずと知れた一年Ｂ組の勝利の女神と言われた翠。
まるで「すごい」と口にしているような、そんな一枚だった。
こんな一瞬の表情をよく撮れたと思う。
俺の写真がデジカメで撮られたものに対し、翠の写真は携帯で撮られたものだった。
「欲しい？」
茜先輩に訊かれ、
「もらえるなら」
「ほら！ 私の勝ち！」
は……？
「くっそー。負けたあああっ」
「絶対言わないと思ったのにっ」
会長と優太が頭を抱える。
なんの話なのかさっぱりだが、流れ的には俺が写真を欲しがるかどうかの賭けをしていたのだろう。
「司、携帯の電源落としてたりする？」
茜先輩に訊かれて思い出す。
翠との会話を中断されるのが嫌で、図書室に入る前に電源を落としていた。
携帯を取り出し電源を入れると、メールが一通届いた。
受信したメールを開くと、画面いっぱいに翠の写真が写った。
……やられた。意表をつかれた。
「嬉しい？」
邪気のない笑顔で茜先輩に訊かれるものの、なんて答えたらいいのかがわからなかった。
こういう感情を嬉しいと言うのだろうか……。
ただ、俺のシュートを見てこんな顔をしていたのか、と思うと胸のあたりが妙に熱くなる。
それが"嬉しい"という感情だというのなら、嬉しいのだろう。
「さ、ゲームも終わったし帰るか」
朝陽が言うと、みんなが席を立つ。
どうやらこの時間までここにいたのは、俺が隣の部屋から出てくるのを待ってのことだったらしい。
メンバーが帰りの支度をしていると、翠と御園生さんが出てきた。
「翠葉……お前ずいぶんと撮られたなぁ……」
御園生さんが顔全体を引きつらせる。
「私もびっくりして腰抜かしちゃった……。でもね、司先輩と桃華さんたちが念書集めてくれたから」
翠がダンボールを指差すと、
「司、手間かけて悪い。ありがとな」
と、御園生さんに声をかけられた。
「仕事だからかまいません」
人が図書室を出るのを見送り、パソコンを戻しに隣の部屋へ入る。と、
「どう？ 片付きそう？」
「月曜には吐き出し作業は終わると思う」
「コーヒー飲んでいくか？」
「自分でやる。秋兄は？」
「お願い」
ドリップコーヒーを淹れるといい香りがした。
コーヒーの香りはいつも気持ちをフラットな状態にしてくれる。
秋兄のデスクにカップを置こうとしたら、
「そっちで飲む」
と、ダイニングテーブルを指差した。
秋兄と向かい合わせに座ったものの、なんだか落ち着かない。
ここでこんなふうに座ることはそうそうない。ただ、翠が入学してきてからは、一緒にコーヒーやケーキを食べる回数が増えた気がする。
そんなことを考えていると、
「翠はちゃん、かわいいな」
唐突な言葉に虚をつかれる。
「は？」
「だから、翠葉ちゃん、かわいいよなって言ったんだけど」
……そのまま取れ、ということだろうか？
「校内展示の写真にかなりの枚数が上がってくる程度には見目がいいんじゃない」
そんなふうに答えると、
「いや、外見はもちろんなんだけどさ。中身は？」
どこか面白そうに訊かれていた。
この話の真意はどこにあるのだろうか。
「中身って性格のこと？」
「そう」
「……俺に言わせたら、摩訶不思議な思考回路って表現になるけど？」
「くっ、摩訶不思議か……」
「……けど、話すのも見てるのも面白いとは思う。……時折自分のペースを乱されるのは嫌だけど」
「俺は翠葉ちゃんと一緒にいる司を見るのが好きだよ。お前、翠葉ちゃんと一緒だと表情が豊かになるし」
「はっ!? 表情がくるくる変わるのは翠だけだろ!?」
「どうかな？」
言いながら、秋兄は仕事のデスクに戻った。
文句を言いたい気分ではあったが、すでに仕事を再開している秋兄の邪魔をするのは憚られ、コーヒーを飲み終えるとカップを洗って仕事部屋をあとにした。
図書室には枚数を考えたくないほどの写真が広がっている。
その端々に翠の姿をとらえ、
「無防備すぎだろ……」
小路を歩きつつ、写真に写る翠に文句を言って図書室を出た。
そんな時間があるなら帰って勉強すればいいものを……。
「そうそう、司の写真でいいのがあったんだけどさ」
会長から声がかかった。
いつもの俺のポジション。窓際の席に着くと、その写真を見せられる。
ただ、俺がバスケでシュートをしているだけの写真に見えるが……。
「ぶれてますけど」
正直な感想を述べる。と、
「そうだね。でも、これを送ってきたの誰だと思う？」
知るか……。
無言を通すと、
「司の従弟君だよ」
と、朝陽が言う。
……海斗？
「だから何」
訊くと、優太がにやりと笑みを深めた。
なんだ……海斗、何を仕掛けた？
トラップの予感を感じていると、
「これがそのメールよ」
と、隣に座る茜先輩がディスプレイを俺に向けた。
件名：司以外の生徒会メンバーの皆様へ
本文：勝利の女神が釘付けになったシュート。
俺から渡すんじゃつまらないから、
生徒会メンバー経由で翠葉にプレゼント
してあげてください。
で、もう一枚はそのシュートを見た直後の
女神の表情！
どう？ かわいいでしょ？
一枚目撮影：藤宮海斗
二枚目撮影：簾条桃華
添付ファイルはふたつ。
一枚は俺のぶれた写真。もう一枚は言わずと知れた一年Ｂ組の勝利の女神と言われた翠。
まるで「すごい」と口にしているような、そんな一枚だった。
こんな一瞬の表情をよく撮れたと思う。
俺の写真がデジカメで撮られたものに対し、翠の写真は携帯で撮られたものだった。
「欲しい？」
茜先輩に訊かれ、
「もらえるなら」
「ほら！ 私の勝ち！」
は……？
「くっそー。負けたあああっ」
「絶対言わないと思ったのにっ」
会長と優太が頭を抱える。
なんの話なのかさっぱりだが、流れ的には俺が写真を欲しがるかどうかの賭けをしていたのだろう。
「司、携帯の電源落としてたりする？」
茜先輩に訊かれて思い出す。
翠との会話を中断されるのが嫌で、図書室に入る前に電源を落としていた。
携帯を取り出し電源を入れると、メールが一通届いた。
受信したメールを開くと、画面いっぱいに翠の写真が写った。
……やられた。意表をつかれた。
「嬉しい？」
邪気のない笑顔で茜先輩に訊かれるものの、なんて答えたらいいのかがわからなかった。
こういう感情を嬉しいと言うのだろうか……。
ただ、俺のシュートを見てこんな顔をしていたのか、と思うと胸のあたりが妙に熱くなる。
それが"嬉しい"という感情だというのなら、嬉しいのだろう。
「さ、ゲームも終わったし帰るか」
朝陽が言うと、みんなが席を立つ。
どうやらこの時間までここにいたのは、俺が隣の部屋から出てくるのを待ってのことだったらしい。
メンバーが帰りの支度をしていると、翠と御園生さんが出てきた。
「翠葉……お前ずいぶんと撮られたなぁ……」
御園生さんが顔全体を引きつらせる。
「私もびっくりして腰抜かしちゃった……。でもね、司先輩と桃華さんたちが念書集めてくれたから」
翠がダンボールを指差すと、
「司、手間かけて悪い。ありがとな」
と、御園生さんに声をかけられた。
「仕事だからかまいません」
人が図書室を出るのを見送り、パソコンを戻しに隣の部屋へ入る。と、
「どう？ 片付きそう？」
「月曜には吐き出し作業は終わると思う」
「コーヒー飲んでいくか？」
「自分でやる。秋兄は？」
「お願い」
ドリップコーヒーを淹れるといい香りがした。
コーヒーの香りはいつも気持ちをフラットな状態にしてくれる。
秋兄のデスクにカップを置こうとしたら、
「そっちで飲む」
と、ダイニングテーブルを指差した。
秋兄と向かい合わせに座ったものの、なんだか落ち着かない。
ここでこんなふうに座ることはそうそうない。ただ、翠が入学してきてからは、一緒にコーヒーやケーキを食べる回数が増えた気がする。
そんなことを考えていると、
「翠はちゃん、かわいいな」
唐突な言葉に虚をつかれる。
「は？」
「だから、翠葉ちゃん、かわいいよなって言ったんだけど」
……そのまま取れ、ということだろうか？
「校内展示の写真にかなりの枚数が上がってくる程度には見目がいいんじゃない」
そんなふうに答えると、
「いや、外見はもちろんなんだけどさ。中身は？」
どこか面白そうに訊かれていた。
この話の真意はどこにあるのだろうか。
「中身って性格のこと？」
「そう」
「……俺に言わせたら、摩訶不思議な思考回路って表現になるけど？」
「くっ、摩訶不思議か……」
「……けど、話すのも見てるのも面白いとは思う。……時折自分のペースを乱されるのは嫌だけど」
「俺は翠葉ちゃんと一緒にいる司を見るのが好きだよ。お前、翠葉ちゃんと一緒だと表情が豊かになるし」
「はっ!? 表情がくるくる変わるのは翠だけだろ!?」
「どうかな？」
言いながら、秋兄は仕事のデスクに戻った。
文句を言いたい気分ではあったが、すでに仕事を再開している秋兄の邪魔をするのは憚られ、コーヒーを飲み終えるとカップを洗って仕事部屋をあとにした。
図書室には枚数を考えたくないほどの写真が広がっている。
その端々に翠の姿をとらえ、
「無防備すぎだろ……」
小路を歩きつつ、写真に写る翠に文句を言って図書室を出た。
