光のもとでⅠ
「あら、もう終わったの?」
 湊先生に声をかけられて、「はい」と答える。
 それを昨日と同じように茶封筒に入れ、デスクの引き出しにしまった。
 私の携帯は先生のデスクの上。
 先生はふと思いついたかのように時計に目をやり、
「あんた、テスト捨ててないわよね?」
 真顔で訊かれたけれど、
「捨てるなら最初から来てません……体力温存」
「それもそうね……。じゃ、点滴するからベッドに行ってなさい」
 と、奥のベッドへ移動し横になる。
 今日も変わらず天井が白い。あ、誰かが椅子を引き摺った……。
 そんなことくらいしか音から得られる情報はない。
 白い天井も微妙に柄があるから病院の天井やマンションの天井、それから自宅の天井を見間違えることはない。
 でも、ぼーっとしているときに見ると、保健室と病院の天井は見分けがつきづらくて少し困る。
 視線を少しずらせば窓の外に紫陽花が見えた。
 この時期になってぐんぐんと葉を茂らせた紫陽花は、蕾はあるものの、まだ何色になるのかはわからない。
 蕾はほんのりと青味がかったアイボリー。
< 1,394 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop