光のもとでⅠ
 湊先生は何か思いついたように私の名前を呼んだ。
「ヨーロッパのジンクス知ってる?」
 ヨーロッパのジンクス……。
「あ、ウェディングで青いもの! サムシングフォーですか?」
「さすが翠葉ね。サムシングブルーの青は、きっと紫陽花のブルーみたいに優しい色だと思うわ」
 そう言って窓に近づくと、
「外、かなり蒸してると思うけど、少し窓開ける?」
 と、訊かれた。
「でも、先生暑いの嫌いなんじゃ……」
「嫌いよ。だから、少しだけ。短時間」
「ありがとうございます」
 先生は窓を開けると五分ほどそのままにしてくれた。
 部屋の換気と称して窓を開け、廊下に出るドアも廊下の窓も開け放し風を通してくれた。
 外から入ってきた空気は確かに少し生ぬるく、湿ったそれはお世辞にも気持ちのいいものではない。
 でも、夏の入り口っぽい緑の濃い匂いがする。
 そんな匂いに梅雨だな、と思った。
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