光のもとでⅠ
「……マンションはとても楽しかったし、学校へ通うのも楽だったんですけど、しばらくは自宅でゆっくり過ごしたくて……」
 上手に笑える自信もないのに、どうして笑みを添えようとしたんだろう。
 笑みを添える必要なんてどこにもなかったのに。
「先生……少し変な症状が出ているのはきっと環境の変化のせいだと思うんです。マンションは本当に楽しかったんですけど、色んなことがありすぎて、私、少しキャパシティオーバーみたいです。ホームグラウンドに戻ったら症状も小康状態に戻ると思います。だから、自宅へ帰ります」
 そこで一度区切って桃華さんを振り返る。
「桃華さん、あと九日で夏休みだけど、私、それまで欠席しても単位足りるかな……」
 気になるのはそこだった。
 桃華さんはかばんからノートを取り出して数え始める。
「数学と化学と古典が一コマずつ足りなくなる。……でも、十三日の火曜日、午前の授業を受ければクリアできるわ」
 その言葉にほっとする。
 けれども桃華さんの表情は憂いに満ちていた。
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