光のもとでⅠ
 お母さんの実家は家具屋さん。輸入した家具を販売していることもあり、おじいちゃんや叔父さんはしょっちゅう海外を飛びまわっているのだ。
 そんな話をしながら三人でお茶を飲んだ。
「格好いいお母さんだよね。憧れちゃう」
 向後さんは人懐こい顔でにこりと笑う。
 その笑顔は表情が麻痺し始めていた私の表情筋を緩める力があって、気づけば私もほんの少し笑うことができた。
「自慢の母です。母のようになれたらいいけど、私はどうでしょう……」
 自信なんてこれっぽっちもないし、お母さんのようにバイタリティあふれる人間にはなれそうにもない。
「翠葉ちゃん、私ね、臓器がひとつないんです」
「……え?」
「人間の身体には腎臓が二個あるでしょう? それがひとつしかないの。色々つらいこともあったけど、今はこんなに元気だし碧さんと一緒に仕事できるほど普通に生活してるよ」
 目の前にいる人に腎臓が一個ないなんて、全然そんなふうには思えなくて、でも、過去にはつらい時期を過ごしていたのかもしれないと思うと、こんなふうに未来を切り開くことができる人もいるのだな、と思った。
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