光のもとでⅠ
 お母さんの視線が左手に注がれていて痛かった。
「翠葉、痛いの……?」
「あ、うん……ちょっと。痛みが胸に走ってびっくりして……」
 嘘をついている。
 私、今、嘘をついている……。
「そうじゃないわよね……? 肩か、腕……もしくは手……?」
 お母さんが声を震わせ私の身体に視線をめぐらせる。
「ちょっと前に肩を押さえていたでしょう?」
 もう、無理……?
「碧さん、拡散痛ってご存知ですか?」
 割れた食器をカチャカチャと片付けながら唯兄が話す。
「拡散、痛……?」
「はい。痛いところから痛みが拡散することです。リィにはそれが時々起こるようですよ」
 唯兄は何事もなく答えた。
「湊先生は仰ってなかったけど……」
 お母さんが唯兄の話しに耳を傾けると、
「よくあることらしいので、言い忘れてるだけじゃないですかね? 自分はセリを見てきて知ってるだけです」
 そこで一度区切り、キッチンに食器の破片を持っていくと、台拭きを持って戻ってきた。
< 1,534 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop