光のもとでⅠ
「……食べ物なら、あちらで唯兄と食べてください」
 少し声が硬質なものとなってしまった。
「若槻は仕事中。蒼樹は買出し。俺はピンチヒッターで翠葉ちゃんの付き添い」
 秋斗さんの口からポンポンと出てくる言葉たちがひどく嬉しかった。
 普通の対応――腫れ物に触るような話し方じゃなくてとても普通だ……。
 そんなことすら久しぶりだった。
 湊先生は相変わらずマイペースだけれど、ほか……。栞さんや蒼兄、唯兄はどこか腫れ物に触るような接し方になっている。
 わかってる……。
 そうさせているのは私だし、むしろそれで近寄りがたいと思ってもらえればそれにこしたことはなかったから。
「翠葉ちゃん、手、つないでもいいかな」
 手……?
「天蓋越しにしか会えないのなら、手ぐらいは握りたいかな」
 声音が少し変わる。
「それがダメなら髪の毛。……まるで大昔の男になったみたいだ」
 秋斗さんは切なげに口にした。
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