光のもとでⅠ
何をしようかな……。というよりは、模試の勉強をしなくちゃ。
かばんを開けて思い出す。今朝、海斗くんに渡されたノートを。
まだ目すら通していなかったそのノート二冊をテーブルに並べた。
片方が英語で片方が古典。
十年前のノートらしく、ほどよく年季が入っている。
こういう使いこまれたノートが好き……。
蒼兄の参考書みたいな感覚。
表紙を開くと、男の人らしい力強い文字が並んでいた。
私は縦書きがとても苦手だ。習字はお世辞にも褒められたものではない。
そんな自分とは比べるまでもないのだけど、バランスの取れたきれいな文字に嫉妬する。
今まで秋斗さんの字を見たことがなかったため、余計に印象的だったのかもしれない。
もう一冊のノートを開くと、今度は芸術的なまでに美しい筆記体が並んでいた。
桃華さんのノートとは少し違う。
桃華さんのノートは女性らしいノートで、これは……なんていうか高校生らしくないノート。
とても大人びた筆跡に見えた。
そして、どちらのノートも要点が簡潔にまとめられていて見やすいうえに覚えやすい。
あれ? それともちょっと違うかな……?
これはノートというよりは絵として頭に入ってしまいそうだ。
脳内スキャンがかけられそうに美しいノートってどうなんだろう……。しかも、当時十五歳だった少年が書いたはずのもの。
……そうだよね?
たぶん、秋斗さんは名前からすると秋生まれ。ならば、これを書いたのは十六歳になる前。
今から十年前は十五歳だったのだ。
すごく当たり前のことなのに、どうしてか想像ができなかった。
逆に、十年後の自分を想像してみたけれど、全く想像できなかった。
……そんなものなのだろうか。
帰ったら蒼兄に高校時代の写真を見せてもらいたいな。
一枚くらいは秋斗さんと一緒に写っている写真があると嬉しい。
思い立って蒼兄にメールを送ることにした。
件名:お願いごと
本文:蒼兄の高校のアルバムを見たいです。
模試が終わったら見せてね。
すぐにメールが返ってきた。
件名:Re:お願いごと
本文:いいよ。
近いうちに出しておく。
見たいのは秋斗先輩だろ?
「……鋭い」
でも……ということは写真があるということなのだろうか?
楽しみかも……。
「翠葉ちゃん、ひとり百面相?」
急に声をかけられてびっくりした。
「いえ……秋斗さん、このノートありがとうございます。すごく見やすいしわかりやすいです」
「どういたしまして。十年前のものだから今のテストにどの程度対応できるかは不明だけど。でも、司も使ってたし海斗も使ってるみたいだから意外と大丈夫なのかもね」
……それは素晴らしく信頼できるノートなのではないだろうか。
しばらくは問題集や教科書ではなくこのノートを使おう。
残りの時間は古典のノートを眺めて過ごした。
いつもなら嫌々読むのに、全く苦痛に思わないのだから不思議だ。
これも"恋"の賜物なのかな……と、自分で考えたくせに自家発熱する。
これさえなければいいのにな。
こっそりと秋斗さんを見ればすぐに気づかれ目が合ってしまう。
でも、何も言わず、何も訊かずにこりと笑ってくれる。
そんな対応をされては赤くなり、鼓動が速まる。
なのに、その行動を繰り返してしまう自分がいて、本当に救いようがない人間ってこういうことを言うんだろうな、なんて思った。
かばんを開けて思い出す。今朝、海斗くんに渡されたノートを。
まだ目すら通していなかったそのノート二冊をテーブルに並べた。
片方が英語で片方が古典。
十年前のノートらしく、ほどよく年季が入っている。
こういう使いこまれたノートが好き……。
蒼兄の参考書みたいな感覚。
表紙を開くと、男の人らしい力強い文字が並んでいた。
私は縦書きがとても苦手だ。習字はお世辞にも褒められたものではない。
そんな自分とは比べるまでもないのだけど、バランスの取れたきれいな文字に嫉妬する。
今まで秋斗さんの字を見たことがなかったため、余計に印象的だったのかもしれない。
もう一冊のノートを開くと、今度は芸術的なまでに美しい筆記体が並んでいた。
桃華さんのノートとは少し違う。
桃華さんのノートは女性らしいノートで、これは……なんていうか高校生らしくないノート。
とても大人びた筆跡に見えた。
そして、どちらのノートも要点が簡潔にまとめられていて見やすいうえに覚えやすい。
あれ? それともちょっと違うかな……?
これはノートというよりは絵として頭に入ってしまいそうだ。
脳内スキャンがかけられそうに美しいノートってどうなんだろう……。しかも、当時十五歳だった少年が書いたはずのもの。
……そうだよね?
たぶん、秋斗さんは名前からすると秋生まれ。ならば、これを書いたのは十六歳になる前。
今から十年前は十五歳だったのだ。
すごく当たり前のことなのに、どうしてか想像ができなかった。
逆に、十年後の自分を想像してみたけれど、全く想像できなかった。
……そんなものなのだろうか。
帰ったら蒼兄に高校時代の写真を見せてもらいたいな。
一枚くらいは秋斗さんと一緒に写っている写真があると嬉しい。
思い立って蒼兄にメールを送ることにした。
件名:お願いごと
本文:蒼兄の高校のアルバムを見たいです。
模試が終わったら見せてね。
すぐにメールが返ってきた。
件名:Re:お願いごと
本文:いいよ。
近いうちに出しておく。
見たいのは秋斗先輩だろ?
「……鋭い」
でも……ということは写真があるということなのだろうか?
楽しみかも……。
「翠葉ちゃん、ひとり百面相?」
急に声をかけられてびっくりした。
「いえ……秋斗さん、このノートありがとうございます。すごく見やすいしわかりやすいです」
「どういたしまして。十年前のものだから今のテストにどの程度対応できるかは不明だけど。でも、司も使ってたし海斗も使ってるみたいだから意外と大丈夫なのかもね」
……それは素晴らしく信頼できるノートなのではないだろうか。
しばらくは問題集や教科書ではなくこのノートを使おう。
残りの時間は古典のノートを眺めて過ごした。
いつもなら嫌々読むのに、全く苦痛に思わないのだから不思議だ。
これも"恋"の賜物なのかな……と、自分で考えたくせに自家発熱する。
これさえなければいいのにな。
こっそりと秋斗さんを見ればすぐに気づかれ目が合ってしまう。
でも、何も言わず、何も訊かずにこりと笑ってくれる。
そんな対応をされては赤くなり、鼓動が速まる。
なのに、その行動を繰り返してしまう自分がいて、本当に救いようがない人間ってこういうことを言うんだろうな、なんて思った。