光のもとでⅠ
「蒼樹、少しずつ良くなるわよ」
「……どうやって?」
「翠葉の弱点は人とコミュニケーションを積んできていないことにあるの。だから、対人性におけるストレスに弱い。人と接することが増えればケンカをしたり嫌なことだって経験する。そういうことを積み重ねて心は強くなっていく。人間なんてね、挫折の繰り返しで強くなる生き物なのよ。だから、薬なんかに頼らなくても治せる」
「……世間の荒波にもまれることが薬ということか?」
 静さんが訊くと、姉さんは「そう」と答えた。
 そこで、今まで口を開かずにいた司が口を開いた。
「今、翠が持ってる不安要素って栞さんがいないことと秋兄のことなんじゃないの? 栞さんのことはともかくとして、秋兄のほうはどうにかなんないわけ?」
「秋斗のこと、か……。確かに気にしていたな」
 静さんが顎に手をやり、何かを考えているようだった。
 この場で秋斗の状態を知らないのは海斗のみ。
 海斗には出張と伝えてあるらしい。
「姉さん、このこと御園生夫妻には?」
「話してあるわ」
「そう……」
< 1,649 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop