光のもとでⅠ
「エライ、よくがんばった」
 俺の方を見るでもなく、寝室側の壁を見たまま言われた。
「……びびったぁ……。俺、殴られるのかと思った」
「んなことしないわよ……。今回はあんただってかなり悩んだんでしょ? キスマークひとつであの様よ。誰が予想できた? こんなこと、誰も予想できなかったわよ……」
 確かに……。
 しばらくは会いにくるなと言われたとき、意味がわからなくて混乱した。
 楓に怒鳴られて、彼女の精神状態や自傷行為を知ったときには取り返しのつかないことをしたと思った。
 でも、理解や納得とは程遠く、何がどうして――という思いのほうが強く、冷静に話せるようになるまでには時間を要した。
「翠葉の身体を優先してくれてありがとう」
 言って湊ちゃんは俯いた。
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