光のもとでⅠ
 姉さんを無視して保健室を出ると、今度は足音ではなく、スタンドを転がす音が不規則に響いた。
 それは翠が左足をかばうようにゆっくりと歩いているから。
 痛みは足にも出ているのか……?
 浮かび上がった疑問を明確にしたい気はした。でも、尋ねる気は起きなかった。
 翠が、あまりにも必死に歩いていたから。
 階段に差し掛かると、
「先輩、ありがとうございます」
「礼を言われるほどのことはしてない」
「でも、ありがとうございます……」
「何度も言わなくていい」
「でも、ありがとうございます……」
「……何度言うつもり?」
 訊かなかったら何度でも言われそうだった。
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