光のもとでⅠ
 つまり、しばらくの間は湊先生も紫先生でも楓先生でもなく、ということだろうか。
「彼は海外から帰国したばかりということもあって、通常勤務までにはまだ少し時間があるんだ。手持ちの患者もいない。だから、翠葉ちゃんについてもらおうと思う。麻酔の腕も楓より数百倍いいよ」
 紫先生は少しいたずらっぽく笑った。
 ピルルルル――。
 院内PHSが鳴ると、
「おっと、呼び出しだ。じゃ、悪いが昇、あとは頼んだよ」
 と、紫先生は病室を出ていってしまった。
 その背中を見送りつつ、
「相変わらず忙しい人だなぁ……」
 そう言ったのは栞さんの旦那さん。
「ま、そんなわけでよろしく」
 差し出された手は右手。
 点滴されているのは左手であり、私の右手は空いている。
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