光のもとでⅠ
「長らく飢餓状態にあってホルモンバランスが崩れてるんだ。脳内ホルモン――ドーパミン、ノルアドレナリン、セレトニンの三つが脳を司る主要ホルモン。それらが崩れると躁鬱になったり抑鬱になったりする。気持ちの浮き沈みが激しかったり涙が止まらなくなるのはそのせいだ」
 わけのわからない横文字を日常会話のように話し出す。
「あまりにもひどければ薬を使うという手もあるが、君の場合はエネルギーや必要な栄養が足りてない状況っていうのがわかってるから薬の処方はしない。痛みはこっちで引き受けてやるから、経口摂取くらいは自分でできるようにしろ。そうすりゃ自然と治る」
 そんなのっ、できたらしてるっっっ。
 思い切り睨みつけたけど、そんなことはものともせずに訊いてくる。
「匂いがだめだと聞いた。具体的に何がダメだった?」
 顔の筋力がふと緩む。
 何が――。
 ひとつひとつゆっくりと思い出す。
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