光のもとでⅠ
 治療が一通り終わると、藤原さんはカートを押して病室を出ていく。
 残った昇さんはスツールに腰掛けた。
「痛いとこないか?」
「ないです……」
「嘘つきは狼少年なんだぞ」
 言葉を省略しすぎな返答と共に頬をつつかれる。
「ここ、痛いんじゃないの?」
 指差されたのは胸だった。
「いえ、治療をしてもらったので――」
「違う、そうじゃない。物理的じゃなくて心理的なほう」
「あ――」
 ただ少しつつかれただけで涙が出てくるこの目は壊れているのだと思う。
「話してみれば?」
「……昇さん、私……自分で髪の毛切っちゃった……」
「おぉ……この左サイドな?」
 先生は軽く髪の毛に触れた。
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