光のもとでⅠ
 お父さんは時間厳守で約束の時間の前にもあとにも来ない。
 ピタリ、とその時間に来る人。
 約束の時間前にその場に着いていたとしても、待ち合わせの時間まではほかで時間を潰す人。
 遅れるなんてことは絶対にない。
 あと十分……。
「何かあった?」
 司先輩がスツールに座るとそう訊かれた。
「どうして、ですか?」
「昼間に見た顔と違う」
 それは表情が、ということだろうか。
「言いたくないなら別に言わなくていいけど」
 言いながら、お尻のポケットから文庫本を取り出した。
 きっと話し始めれば話を聞いてくれる。そして、何も話したくないのなら、気まずくならないように本を読み続けるのだろう。
 先輩はそういう人だ。
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