光のもとでⅠ

03 Side Tsukasa 01話

 今日は午後から部活。それまでは読みかけの医学書を読んで過ごす予定。
 ベッドで膝に置いた本をめくっていると、視界の隅で携帯が主張を始めた。
「メール……?」
 誰から?
 家族や秋兄、海斗からはメールよりも電話が鳴る率のほうが高い。メールを送ってくるのは生徒会メンバーくらいなものだけど――。
 携帯を手に取ると、思わぬ人物からのメールが届いていた。
 翠――?
 メールを開くと端的すぎる文章が並んでいる。


件名:こういうときはどうしますか?
本文:自分の気持ちのバランスが取れなくて
   気持ちを持て余してしまうとき、
   司先輩ならどうしますか?


 ……どういう気持ちを持て余しているのかによって対応の仕方は異なると思うんだが……。
 理系の人間なのはわかったから、もう少し補足内容を含む文章を要求したい。
 でも、先日のあれを見たあとだ。なんとなく察しはつかなくもない。
 どうせ秋兄のことか何かだろ。……面白くない。休みの日くらい別のことを考えればいいものを――。
 思いながらもすぐに返信画面を起動する。


件名:Re:こういうときはどうしますか?
本文:1精神統一 2瞑想 3寝る


 精神統一は俺がよく使う方法。瞑想は冗談。三番は秋兄のことなんて考えている暇があるなら体力温存のために寝ろ、という当て付け。
 ある意味端的な質問で助かった。これで秋兄のことなんて相談されでもしたら見なかったことにして消去してしまいそうだ。
 自分の中に渦巻く嫉妬心にこうも素直に従ってしまうとは、俺もまだまだ修行が足りない。
 さて……翠はどう受け取っただろうか。
 まず、精神統一は無理だろう。普段からやってない人間には難しすぎる。翠の集中力は計り知れないものがある。が、あれは精神統一とは言えない。立派なシャットアウト機能。
 じゃぁ、瞑想は……?
 冗談とは気づかずに試みるかもしれない。ふと、翠があの部屋で瞑想する様を想像すると、思わず笑みがもれた。そのくらい、翠は人の言うことを真に受ける性質だ。
 ……無難なところで寝ただろうか?
 そのほうが俺としても心安らかでいられるというもの。
 ――なら、最初から「寝る」の一言を返信すれば良かったんじゃないか?
 自分の中に沸き起こる疑問に考えをめぐらす。
 ……少しでも多く言葉を伝えたいとでも思っている自分がいるのだろうか?
 普段では考えられない思考に戸惑う。
 慣れない……。自分の中に芽生えた感情に未だ慣れない。
 そんな自分を立て直すため、読みかけの医学書へ意識を戻した。
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