光のもとでⅠ
「先輩……」
 肩越しに翠が振り返る。
 右手で鎖骨のあたりを押さえながら。
 きっと、IVHのラインが気になるのだろう。
「ありがとうございます……。側にいてくれて、ありがとうございます」
 このタイミングでこれかよ……。
 時々、ものすごく不意をつかれる。
「……そう思うなら敬語やめて」
「え……?」
 外との境界にある自動ドアが開く。
 稜線には沈みきった太陽の残光。
 赤と黄金色(こがねいろ)が混じったような光がきれいだと思った。
「せめて夏休みの間だけでも」
 俺はずるいんだろうな。
 夏休み中に慣れ親しんだ話し方は翠の中に定着し、きっと学校に復帰したときにだって変わることはない。
 それを見越したうえでこんな条件を出しているんだ。
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