光のもとでⅠ
「まだ足りない……」
 それは本音で――でも、こんなキスがしたいわけじゃなかった。
 まだどこかで葛藤している自分を見つけたとき、カツカツカツカツ、とヒールの音が聞こえてきた。
 あぁ、あの人だ。
「御園生さん、あの荷物を全部運ぶのにはちょっと時間がかかるから明日にするわ。とりあえず、これだけあれば大丈夫かと思って」
 藤原さんは彼女の小さなバッグを手にしていた。
「それから」と、俺と彼女の間に割り入り、彼女の隣に腰掛ける。
「私が使っている部屋、この隣なの」
 悠然と微笑む。
「だから、秋斗くんも安心でしょう?」
 これは間違いなく俺に向けられた牽制――。
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