光のもとでⅠ
 翠は、「うん」と答えたものの、自分の重心がどこにあるのかわからないようで、手をどこについたらいいのか考えあぐねていた。
 手探りで身体を起こそうとしている翠からは、ふわりとハーブのような香りがする。
 シャンプーの香り……?
 思わず、サラリ、と動く髪に釘付けになった。
 その合間から見えた翠の視線と自分の視線が絡む。
 途端、翠が左手で胸を押さえた。
「痛み……? 今、胸打った?」
 俺はすぐに上体を起こし、翠の顔を見ようとした。
 でも、翠は「違う」と答えて俯いてしまう。
 顔が見えない……。
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