光のもとでⅠ
25~27 Side Tsukasa 03話
会場の指揮は簾条に任せ、図書棟に戻った。
「翠は?」
先に戻っていた嵐に声をかけると、
「今着替え中。あと少しで更衣室から戻ってくると思う」
しばらくすると、茜先輩と翠はドレスを抱えて戻ってきた。
ドレスを着ているときにはあまり違和感を覚えなかったものの、制服姿で髪がカールされているといつもと様相が違いすぎて少し戸惑う。
普段のストレートよりも、幾分か華やかな印象。その髪型で嬉しそうに笑うと花が咲いたかのように見えた。
「翠葉、俺ガット買いに行かなくちゃいけないから司と帰って?」
「……司先輩は今日もマンションなんですか?」
「……姉さんの部屋に忘れ物」
海斗に対して舌打ちをしたくなる。
マンションに用はない。でも、姫になった翠をひとりで歩かせるのは心配でもある。
だから、咄嗟に忘れ物をしたと口にした。
「翠葉ちゃん、来週には写真ができるから楽しみにしててね」
会長の言葉を聞いた途端、翠の表情が曇った。
来週――日曜日から薬を飲み始めるとしたら、来週は欠席が続くだろう。
「翠葉ちゃん?」
会長が翠の顔を覗き込むと、
「あ、えと……楽しみにしてます」
声すら上ずっていた。
さっきまでは笑っていたのに、すぐにもとに戻ってしまう。
翠の表情筋は強制能力を持ち合わせてはいなさそうだ。
「翠葉ちゃんの"色々"はよくわからないけど、きっと大丈夫だよ。何もかもうまくいく」
翠が回りに一通り声をかけ図書室を出ようとしたとき、
「御園生さん、俺のこと忘れてない?」
と、漣が寄ってきた。
言われてみれば、漣には声をかけていなかったもしれない。
「ごめんなさい。やっと名前覚えました。サザナミセンリくん、さようなら」
すぐにこの場をあとにしたい、という感情がありありとうかがえる言い方だった。
その瞬間に漣が翠に向かって手を出した。しかも、右肩――先日、男に触れられたほうの肩。
「千里放せっ」
すぐに朝陽が止めに入ったが時は遅し――。
翠の体が小刻みに震えだしていた。
「海斗っ、漣出して」
指示を出すと、海斗と優太が動く。
漣は事態を呑み込む前に海斗と優太に両脇を押さえられて図書室を出ていった。
「翠葉っ!?」
簾条が声をかけるも、耳を塞いで座り込んでしまう。
俺は翠の前に膝を付き、
「翠、大丈夫だから。漣は海斗が外に連れ出したからもういない」
その声に、翠は恐る恐る顔を上げた。
「悪い、漣には翠に触れるなって話してなかった」
翠は目にいっぱい涙を溜めて、
「先輩が謝ることじゃないです。おかしいのは私だから……」
「翠葉……?」
簾条が不安そうに覗き込むと、
「なんかね、ちょっと変なの……。司先輩も海斗くんも、蒼兄も佐野くんも平気なの。なのに、ほかの人はダメみたい……」
「秋斗先生も?」
コクリと頷く。
「今朝言っていたのはそれ?」
今朝も何かあったのか……?
「ううん。それはまた別」
「……翠葉は隠し事が多くて本当に困るわ。でも、あまり深刻にならないようにね」
「うん、ありがとう……」
「翠は?」
先に戻っていた嵐に声をかけると、
「今着替え中。あと少しで更衣室から戻ってくると思う」
しばらくすると、茜先輩と翠はドレスを抱えて戻ってきた。
ドレスを着ているときにはあまり違和感を覚えなかったものの、制服姿で髪がカールされているといつもと様相が違いすぎて少し戸惑う。
普段のストレートよりも、幾分か華やかな印象。その髪型で嬉しそうに笑うと花が咲いたかのように見えた。
「翠葉、俺ガット買いに行かなくちゃいけないから司と帰って?」
「……司先輩は今日もマンションなんですか?」
「……姉さんの部屋に忘れ物」
海斗に対して舌打ちをしたくなる。
マンションに用はない。でも、姫になった翠をひとりで歩かせるのは心配でもある。
だから、咄嗟に忘れ物をしたと口にした。
「翠葉ちゃん、来週には写真ができるから楽しみにしててね」
会長の言葉を聞いた途端、翠の表情が曇った。
来週――日曜日から薬を飲み始めるとしたら、来週は欠席が続くだろう。
「翠葉ちゃん?」
会長が翠の顔を覗き込むと、
「あ、えと……楽しみにしてます」
声すら上ずっていた。
さっきまでは笑っていたのに、すぐにもとに戻ってしまう。
翠の表情筋は強制能力を持ち合わせてはいなさそうだ。
「翠葉ちゃんの"色々"はよくわからないけど、きっと大丈夫だよ。何もかもうまくいく」
翠が回りに一通り声をかけ図書室を出ようとしたとき、
「御園生さん、俺のこと忘れてない?」
と、漣が寄ってきた。
言われてみれば、漣には声をかけていなかったもしれない。
「ごめんなさい。やっと名前覚えました。サザナミセンリくん、さようなら」
すぐにこの場をあとにしたい、という感情がありありとうかがえる言い方だった。
その瞬間に漣が翠に向かって手を出した。しかも、右肩――先日、男に触れられたほうの肩。
「千里放せっ」
すぐに朝陽が止めに入ったが時は遅し――。
翠の体が小刻みに震えだしていた。
「海斗っ、漣出して」
指示を出すと、海斗と優太が動く。
漣は事態を呑み込む前に海斗と優太に両脇を押さえられて図書室を出ていった。
「翠葉っ!?」
簾条が声をかけるも、耳を塞いで座り込んでしまう。
俺は翠の前に膝を付き、
「翠、大丈夫だから。漣は海斗が外に連れ出したからもういない」
その声に、翠は恐る恐る顔を上げた。
「悪い、漣には翠に触れるなって話してなかった」
翠は目にいっぱい涙を溜めて、
「先輩が謝ることじゃないです。おかしいのは私だから……」
「翠葉……?」
簾条が不安そうに覗き込むと、
「なんかね、ちょっと変なの……。司先輩も海斗くんも、蒼兄も佐野くんも平気なの。なのに、ほかの人はダメみたい……」
「秋斗先生も?」
コクリと頷く。
「今朝言っていたのはそれ?」
今朝も何かあったのか……?
「ううん。それはまた別」
「……翠葉は隠し事が多くて本当に困るわ。でも、あまり深刻にならないようにね」
「うん、ありがとう……」