光のもとでⅠ
就任式が終わった今、彼女はクラスメイトに囲まれている。
「茜、良かったな」
それは翠葉ちゃんが生徒会に入ったことを指している。でも――。
「ふふ、前に久に話したことがあるでしょう? どうしても気になっているリトルピアニストがいるって」
「え? あぁ、小学生の頃の話だっけ? なんか中学のときにえらい必死で探してたやつでしょ?」
「そう。それね、翠葉ちゃんだったの」
「えっ!? 翠葉ちゃんて翠葉ちゃんっ!?」
目をまん丸にして驚く。
「彼女、本来なら高校二年生だわ。でも、実際は一年生。一個下の子ばかり探してたけど見つからないわけだわ……。でも、やっと見つけた」
「あ~……翠葉ちゃん、特大な蜘蛛の巣にかかっちゃったね」
「ふふ、本当に」
「じゃ、本気で近々始動するの?」
「それはどうかな……。彼女の体調も考慮しなくちゃいけないだろうから、徐々に始めたいけれど……。その前に引き受けてもらえるかも問題だし」
「……とかなんとか言って、引き受けてもらうつもりなんだろ?」
「えぇ」
にこりと笑うと、久も笑った。
久と数メートル先にる彼女を見ていると、
「……里見先輩、歌、歌ってもらえますか?」
少し高めの彼女の声がこちらを向いた。
「何? なんの曲?」
あなたの伴奏ならなんでも歌うわっ!
「星に願いを、なんてどうでしょう?」
「あ、好き!」
「さっきと同じ調で大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
深呼吸をひとつして前奏を始める。
あの深呼吸は演奏前の儀式みたいなものね。
さっきも思ったけれど、本当に多彩な音を奏でる子。
嬉しさを音で表現していた。
素直だなぁ……。こんなふうに感情を音に変換できる子だからこそ、さっきの悲しみの音だったのだろう。それは時として鋭いナイフにもなる。
演奏が終わると、先ほどと同じようにふたり手をつないでお辞儀した。
さ、そろそろ締め時だわ。
椅子に座って飽和状態になってる彼女に近寄り話しかける。
「翠葉ちゃんの音は真っ直ぐね? 悲しいのもつらいのも、何もかもが心にダイレクトに伝わるわ。そういうの、全部一緒に乗り越えられるような仲間になろう? で、いつか私とまたリサイタルしてね?」
「……場に相応しくない曲を弾いてしまってすみませんでした」
すごく申し訳ない顔で謝られた。
でも、私はその演奏を嫌だとは思わない。感情表現を音できるのは、音楽においてはあなたの強みよ?
それに気づいてほしい。
「でも、エーデルワイスも星に願いも、全然違う音で弾いてくれたでしょう? それで帳消し!」
彼女は、「ありがとうございます」と控え目に答えた。
「さ、着替えに戻ろう? 嵐(らん)が図書棟で待機してくれてるわ」
手をつないだままに図書棟までの道を歩く。
「ドレスってなんだかうきうきするよね?」
「私、フルレングスのドレスは初めて着ました。それに、まだ自分の姿は見ていないし……」
不安そうに自分のあちらこちらを見て気にする。
制服姿でもかわいいのだから、今がもっとすてきなのなんて当たり前なのに。
そういうの、全然わかってないんだなぁ……。もったいない。
「私はドレスが着たくて声楽を始めたの」
それは嘘じゃない。
きれいな格好をしてステージに立てば、お父さんに見てもらえる。そう思っていたから。
だから声楽を続けてきたのよ。ピアノもやってはいるけれど、それはついでに過ぎなかった。
「ねぇ、翠葉ちゃん。私とユニットを組まない?」
「え……?」
彼女はきょとんとした顔をしている。
「本気よ? 考えておいてね?」
階段を上りきると、先に図書室へ向かって走り出した。
今、いくつかの仕事依頼がある。
けど、どれもピアノ伴奏が気に食わなくて断り続けていた。
要は、伴奏者を自分側で用意できれば問題ないわけで……。
その伴奏者に翠葉ちゃんになってもらいたい。
翠葉ちゃん、また私と一緒にステージに立とう?
その日を楽しみにしてるからね。
「茜、良かったな」
それは翠葉ちゃんが生徒会に入ったことを指している。でも――。
「ふふ、前に久に話したことがあるでしょう? どうしても気になっているリトルピアニストがいるって」
「え? あぁ、小学生の頃の話だっけ? なんか中学のときにえらい必死で探してたやつでしょ?」
「そう。それね、翠葉ちゃんだったの」
「えっ!? 翠葉ちゃんて翠葉ちゃんっ!?」
目をまん丸にして驚く。
「彼女、本来なら高校二年生だわ。でも、実際は一年生。一個下の子ばかり探してたけど見つからないわけだわ……。でも、やっと見つけた」
「あ~……翠葉ちゃん、特大な蜘蛛の巣にかかっちゃったね」
「ふふ、本当に」
「じゃ、本気で近々始動するの?」
「それはどうかな……。彼女の体調も考慮しなくちゃいけないだろうから、徐々に始めたいけれど……。その前に引き受けてもらえるかも問題だし」
「……とかなんとか言って、引き受けてもらうつもりなんだろ?」
「えぇ」
にこりと笑うと、久も笑った。
久と数メートル先にる彼女を見ていると、
「……里見先輩、歌、歌ってもらえますか?」
少し高めの彼女の声がこちらを向いた。
「何? なんの曲?」
あなたの伴奏ならなんでも歌うわっ!
「星に願いを、なんてどうでしょう?」
「あ、好き!」
「さっきと同じ調で大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
深呼吸をひとつして前奏を始める。
あの深呼吸は演奏前の儀式みたいなものね。
さっきも思ったけれど、本当に多彩な音を奏でる子。
嬉しさを音で表現していた。
素直だなぁ……。こんなふうに感情を音に変換できる子だからこそ、さっきの悲しみの音だったのだろう。それは時として鋭いナイフにもなる。
演奏が終わると、先ほどと同じようにふたり手をつないでお辞儀した。
さ、そろそろ締め時だわ。
椅子に座って飽和状態になってる彼女に近寄り話しかける。
「翠葉ちゃんの音は真っ直ぐね? 悲しいのもつらいのも、何もかもが心にダイレクトに伝わるわ。そういうの、全部一緒に乗り越えられるような仲間になろう? で、いつか私とまたリサイタルしてね?」
「……場に相応しくない曲を弾いてしまってすみませんでした」
すごく申し訳ない顔で謝られた。
でも、私はその演奏を嫌だとは思わない。感情表現を音できるのは、音楽においてはあなたの強みよ?
それに気づいてほしい。
「でも、エーデルワイスも星に願いも、全然違う音で弾いてくれたでしょう? それで帳消し!」
彼女は、「ありがとうございます」と控え目に答えた。
「さ、着替えに戻ろう? 嵐(らん)が図書棟で待機してくれてるわ」
手をつないだままに図書棟までの道を歩く。
「ドレスってなんだかうきうきするよね?」
「私、フルレングスのドレスは初めて着ました。それに、まだ自分の姿は見ていないし……」
不安そうに自分のあちらこちらを見て気にする。
制服姿でもかわいいのだから、今がもっとすてきなのなんて当たり前なのに。
そういうの、全然わかってないんだなぁ……。もったいない。
「私はドレスが着たくて声楽を始めたの」
それは嘘じゃない。
きれいな格好をしてステージに立てば、お父さんに見てもらえる。そう思っていたから。
だから声楽を続けてきたのよ。ピアノもやってはいるけれど、それはついでに過ぎなかった。
「ねぇ、翠葉ちゃん。私とユニットを組まない?」
「え……?」
彼女はきょとんとした顔をしている。
「本気よ? 考えておいてね?」
階段を上りきると、先に図書室へ向かって走り出した。
今、いくつかの仕事依頼がある。
けど、どれもピアノ伴奏が気に食わなくて断り続けていた。
要は、伴奏者を自分側で用意できれば問題ないわけで……。
その伴奏者に翠葉ちゃんになってもらいたい。
翠葉ちゃん、また私と一緒にステージに立とう?
その日を楽しみにしてるからね。