光のもとでⅠ
27 Side Senri 01話
簾条に出された指示を手早く済ませ、もう一度ドレス姿の御園生さんが見たくて急いで図書室に戻ったけど、彼女の姿はどこにもなかった。
そこに司先輩が戻ってきて、「翠は?」と嵐子先輩に訊く。と、
「今着替え中。あと少しで更衣室から戻ってくると思う」
そのやり取りを聞いていて、昨日から思っていた不満がふつふつと思い出される。
なんで司先輩だけが"翠"なんて親しそうに名前を呼ぶんだよ、と。
みんなは"翠葉ちゃん"か"翠葉"か"御園生"なのにさ。
俺なんか、まだ苗字にさん付け……。
しかも、その御園生さん自身は俺の顔も名前もなかなか覚えてくんねーし。
そこで、さっきまでの彼女の姿を回想する。
うん、ピンクのドレスに巻いた髪の毛がきれいだった。嵐子先輩ぐっじょぶ……。
いつもよりも赤みのさした唇がぷるっとしててさ、エスコートしていた司先輩と並ぶのが妙にしっくりと見えてムカついた。
しかも、なんか楽しそうに喋って歩いてたし……。
あれ、本当に付き合ってないのかな?
そんなことを考えていると、茜ちゃんとふたりしてドレスを抱えて戻ってきた。
う~ん……いいっ!
制服にその髪型っていうのも合う。ストレートよりも華やかさがある。でも、あのストレートの髪にも手櫛を通してみたい……。
「翠葉、俺ガット買いに行かなくちゃいけないから司と帰って?」
「……司先輩は今日もマンションなんですか?」
と、彼女は司先輩を振り仰ぐ。
「……姉さんの部屋に忘れ物」
海斗っ! そういう気は俺に遣えよっ!
俺、家反対方向だけど、彼女を送るためだったらかまわないのにっ!
気の利かない同胞に殺意を覚える。
「翠葉ちゃん、来週には写真ができるから楽しみにしててね」
会長の言葉に彼女はなんとも言えない表情になった。
……写真、嫌いなんかな?
「翠葉ちゃん?」
会長が翠の顔を覗き込むと、
「あ、えと……楽しみにしてます」
と、不自然に答える。
「翠葉ちゃんの"色々"はよくわからないけど、きっと大丈夫だよ。何もかもうまくいく」
何を根拠に、と思う。でも、その笑顔につられるように彼女が笑ったからまぁいっか。
その後、周りに挨拶をし始め帰る準備をした彼女は俺を見事にスルーした。
なんとなく避けられてる気はしてた。でも、なんでかはわからない。
告白したことすら忘れていたような人間が、告白をした相手だから、ということで避けるとは思えない。
これはちょっと訊いておくべきかな。
「御園生さん、俺のこと忘れてない?」
「ごめんなさい。やっと名前覚えました。サザナミセンリくん、さようなら」
思い切り棒読み。すぐにでもこの場を去りたいという感じがありありとうかがえる。
いくらなんでもそれはないだろ……と、彼女の肩に手をかけると、
「千里放せっ」
「えっ?」
朝陽先輩の切迫した声に何事かと思う。
すると、
手から振動が伝ってきた。俺の手に触れているのは彼女の細い肩――。
「海斗、漣出してっ」
司先輩の声にはじかれたように海斗と春日先輩が動き、俺は両脇抱えられ、引き摺られるようにして図書室を出た。
そこに司先輩が戻ってきて、「翠は?」と嵐子先輩に訊く。と、
「今着替え中。あと少しで更衣室から戻ってくると思う」
そのやり取りを聞いていて、昨日から思っていた不満がふつふつと思い出される。
なんで司先輩だけが"翠"なんて親しそうに名前を呼ぶんだよ、と。
みんなは"翠葉ちゃん"か"翠葉"か"御園生"なのにさ。
俺なんか、まだ苗字にさん付け……。
しかも、その御園生さん自身は俺の顔も名前もなかなか覚えてくんねーし。
そこで、さっきまでの彼女の姿を回想する。
うん、ピンクのドレスに巻いた髪の毛がきれいだった。嵐子先輩ぐっじょぶ……。
いつもよりも赤みのさした唇がぷるっとしててさ、エスコートしていた司先輩と並ぶのが妙にしっくりと見えてムカついた。
しかも、なんか楽しそうに喋って歩いてたし……。
あれ、本当に付き合ってないのかな?
そんなことを考えていると、茜ちゃんとふたりしてドレスを抱えて戻ってきた。
う~ん……いいっ!
制服にその髪型っていうのも合う。ストレートよりも華やかさがある。でも、あのストレートの髪にも手櫛を通してみたい……。
「翠葉、俺ガット買いに行かなくちゃいけないから司と帰って?」
「……司先輩は今日もマンションなんですか?」
と、彼女は司先輩を振り仰ぐ。
「……姉さんの部屋に忘れ物」
海斗っ! そういう気は俺に遣えよっ!
俺、家反対方向だけど、彼女を送るためだったらかまわないのにっ!
気の利かない同胞に殺意を覚える。
「翠葉ちゃん、来週には写真ができるから楽しみにしててね」
会長の言葉に彼女はなんとも言えない表情になった。
……写真、嫌いなんかな?
「翠葉ちゃん?」
会長が翠の顔を覗き込むと、
「あ、えと……楽しみにしてます」
と、不自然に答える。
「翠葉ちゃんの"色々"はよくわからないけど、きっと大丈夫だよ。何もかもうまくいく」
何を根拠に、と思う。でも、その笑顔につられるように彼女が笑ったからまぁいっか。
その後、周りに挨拶をし始め帰る準備をした彼女は俺を見事にスルーした。
なんとなく避けられてる気はしてた。でも、なんでかはわからない。
告白したことすら忘れていたような人間が、告白をした相手だから、ということで避けるとは思えない。
これはちょっと訊いておくべきかな。
「御園生さん、俺のこと忘れてない?」
「ごめんなさい。やっと名前覚えました。サザナミセンリくん、さようなら」
思い切り棒読み。すぐにでもこの場を去りたいという感じがありありとうかがえる。
いくらなんでもそれはないだろ……と、彼女の肩に手をかけると、
「千里放せっ」
「えっ?」
朝陽先輩の切迫した声に何事かと思う。
すると、
手から振動が伝ってきた。俺の手に触れているのは彼女の細い肩――。
「海斗、漣出してっ」
司先輩の声にはじかれたように海斗と春日先輩が動き、俺は両脇抱えられ、引き摺られるようにして図書室を出た。