光のもとでⅠ
第06章 葛藤
01
六月六日――青空は見えるものの、雲の分量のほうが多い。
けれども陽が差していないわけではなく、晴れとも曇りとも言いがたい天気。
気温は二十九度まで上がるらしく、ノースリーブのワンピース一枚で大丈夫そう。
今日は朝から湊先生も栞さんの家に来ている。
昨日、夕飯を一緒にたべたとき、秋斗さんと明日会うという話をして、栞さんに髪の毛を巻いてもらうという話をしたら、「じゃ、私がメイクをしてあげる」と湊先生に言われたのだ。
メイクといってもおしろいを少しはたいて、チークとマスカラをつけるだけ。それから、ほんのりと色づくリップクリームをプレゼントしてくれた。
湊先生は洋服を見てからメイクをしてくれ、今は栞さんがコテで髪の毛を巻いてくれている。
髪の毛が少しずつ少しずつカールしていく。
「栞さん、この髪飾り……どちらかを使いたいの」
秋斗さんからいただいた髪飾りを見せる。
「あらすてき。秋斗くんからのプレゼントね」
「はい」
会えるのは嬉しいはずなのに、返事することを考えると気持ちは沈むばかり。
それに、近づけないというオプションまでついてしまった。
「翠葉、なんでそんなに暗いのよ。これから好きな人とデートでしょ?」
湊先生に言われて無理をして笑みを浮かべた。
「そうですよね……。なんだろう、緊張してるのかな」
「秋斗相手に緊張なんて、無駄よ、無駄」
湊先生はカラカラと笑うけど、そういう緊張ではない。
ドキドキはドキドキでも、わくわくするほうではなく、心臓に悪いほうのドキドキ――。
髪型は、全体的に髪の毛を巻いて、ハーフアップを捻って左耳の後ろあたりで小さなお団子を作る。そこを髪飾りで留め毛先を流すしたら完成。
鏡越しに、「どう?」と栞さんに訊かれる。
「自分じゃないみたいです」
「今度やり方教えてあげるわ」
「嬉しい……」
緊張の極致で昨夜はあまり眠れていない。
そのせいもあり、朝も昼もご飯はほとんど食べられなかった。
仕方なく、野菜のスープのみを小分けにして数時間おきに飲んでいた。
濃紺のワンピースに着替え、携帯を見るものの、表示されている血圧の数値はお世辞にもいいとは言えない。
「翠葉、これ飲んで行きなさい」
湊先生に差し出されたのはひとつの錠剤。
「あまり翠葉に飲ませたいものじゃないけど、今日一日くらいはいいでしょう。でも、少し自由に体が動くからって無理はしないこと。いいわね?」
そう言われて薬を飲んでから三十分。
体が少しポカポカしてきて、私にしては珍しく手足があたたかいと感じる。
「湊先生、さっきの錠剤、なんだったんですか?」
「滋養強壮剤ってやつよ。もともとあんたの体はオーバーワークできるようにはできてない。だから本来は飲ませるべきものじゃないの。でも、今日は特別。楽しんでらっしゃい」
「……はい」
そのすぐあとにインターホンが鳴った。
今日はここへは帰ってこない。
荷物を持って出て、秋斗さんにそのまま家まで送ってもらうことになっている。
「また泊りにいらっしゃい」
栞さんに言われてコクリと頷く。
「今日は一日ここにいるから、何かあれば帰ってらっしゃい」
と、湊先生も声をかけてくれた。
その言葉に心を支えてもらえた気がして、ほんの少し気が緩んだ。
けれども陽が差していないわけではなく、晴れとも曇りとも言いがたい天気。
気温は二十九度まで上がるらしく、ノースリーブのワンピース一枚で大丈夫そう。
今日は朝から湊先生も栞さんの家に来ている。
昨日、夕飯を一緒にたべたとき、秋斗さんと明日会うという話をして、栞さんに髪の毛を巻いてもらうという話をしたら、「じゃ、私がメイクをしてあげる」と湊先生に言われたのだ。
メイクといってもおしろいを少しはたいて、チークとマスカラをつけるだけ。それから、ほんのりと色づくリップクリームをプレゼントしてくれた。
湊先生は洋服を見てからメイクをしてくれ、今は栞さんがコテで髪の毛を巻いてくれている。
髪の毛が少しずつ少しずつカールしていく。
「栞さん、この髪飾り……どちらかを使いたいの」
秋斗さんからいただいた髪飾りを見せる。
「あらすてき。秋斗くんからのプレゼントね」
「はい」
会えるのは嬉しいはずなのに、返事することを考えると気持ちは沈むばかり。
それに、近づけないというオプションまでついてしまった。
「翠葉、なんでそんなに暗いのよ。これから好きな人とデートでしょ?」
湊先生に言われて無理をして笑みを浮かべた。
「そうですよね……。なんだろう、緊張してるのかな」
「秋斗相手に緊張なんて、無駄よ、無駄」
湊先生はカラカラと笑うけど、そういう緊張ではない。
ドキドキはドキドキでも、わくわくするほうではなく、心臓に悪いほうのドキドキ――。
髪型は、全体的に髪の毛を巻いて、ハーフアップを捻って左耳の後ろあたりで小さなお団子を作る。そこを髪飾りで留め毛先を流すしたら完成。
鏡越しに、「どう?」と栞さんに訊かれる。
「自分じゃないみたいです」
「今度やり方教えてあげるわ」
「嬉しい……」
緊張の極致で昨夜はあまり眠れていない。
そのせいもあり、朝も昼もご飯はほとんど食べられなかった。
仕方なく、野菜のスープのみを小分けにして数時間おきに飲んでいた。
濃紺のワンピースに着替え、携帯を見るものの、表示されている血圧の数値はお世辞にもいいとは言えない。
「翠葉、これ飲んで行きなさい」
湊先生に差し出されたのはひとつの錠剤。
「あまり翠葉に飲ませたいものじゃないけど、今日一日くらいはいいでしょう。でも、少し自由に体が動くからって無理はしないこと。いいわね?」
そう言われて薬を飲んでから三十分。
体が少しポカポカしてきて、私にしては珍しく手足があたたかいと感じる。
「湊先生、さっきの錠剤、なんだったんですか?」
「滋養強壮剤ってやつよ。もともとあんたの体はオーバーワークできるようにはできてない。だから本来は飲ませるべきものじゃないの。でも、今日は特別。楽しんでらっしゃい」
「……はい」
そのすぐあとにインターホンが鳴った。
今日はここへは帰ってこない。
荷物を持って出て、秋斗さんにそのまま家まで送ってもらうことになっている。
「また泊りにいらっしゃい」
栞さんに言われてコクリと頷く。
「今日は一日ここにいるから、何かあれば帰ってらっしゃい」
と、湊先生も声をかけてくれた。
その言葉に心を支えてもらえた気がして、ほんの少し気が緩んだ。