光のもとでⅠ
「どうして、って顔だね?」
 コクリと頷くと、
「湊という人間を取り合うとき、私の中で一番のライバルが彼だった。だから国外追放したんだよ」
 明快なのか曖昧なのか、よくわからない答え。
「さ、病室へ戻ろうか」
 立ち上がる静さんの顔には、「それ以上は秘密」と書いてある気がした。
 意味はよくわからない。
 でも、相馬先生が勘違いされてないならそれでいい――。


 * * *


 昨夜は静さんが帰ってからもツカサのことが気になって仕方なかった。
 気になったのはツカサの余裕のなさ……。
 私が知っているツカサは、インターハイ前やその期間中でも、緊張を表に出すような人ではなく、繕うくらいの余裕は持ち合わせていた。
 けれど、昨日のツカサは、私の返事を聞く余裕もないくらいに動揺しているように思えた。
「動揺、じゃなくて、動転、かな……」
 静さんは詳しくは教えてくれなかったけれど、急を要していることはわかったし、それだけで十分だった。
 あのあと、病室で圏外の携帯をずっと見ていたけれど、メールが届くわけじゃないし、電話がかかってくるわけじゃない。
 ましてや、自分が電話をかけられる状態にもない。
 それでも、私とツカサをつないでいるのはこの携帯ひとつな気がしたのだ。
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