光のもとでⅠ
 こういう場で、場を和ませられるだけの話術が自分にはない。
 そんなとき、唯兄の存在が恋しくなる。
 秋斗さんの笑みが薄まり穏やかな表情になる。と、次は誠実な顔つきになった。
「翠葉ちゃん、あの日にあったことを全部話そうと思う。その前にあったことも――」
「秋兄っっっ」
 急に右側からツカサの声が飛び込んできた。
「君が無くしたもの――話したところで記憶が戻るわけじゃないって聞いてる。それでも、知っていたほうがいいと思うし、俺は知っていてほしいんだ。そのうえで話したいことがたくさんある」
 心を決めた人、というのはこういう人のことをいうのかもしれない。
 言葉や声、表情から寸分のぶれもなくものを見つめているように思えた。
 私の心はドキドキもしていなければ、不安に駆られることもなく、とても平静だ。
「司、俺に誕生日プレゼントをありがとう。それに追加でお願いがある。……少し、翠葉ちゃんとふたりにしてくれ」
 秋斗さんの言葉にふっと怒りがこみ上げた。
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