光のもとでⅠ
 秋斗さんは学校からマンションへ移動する際の会話や、秋斗さんの家での会話を思い出せる限り教えてくれた。
「ウィステリアホテルのシェフ、須藤さんは覚えてる?」
「はい、覚えています」
「彼と初めて会ったのはこの日なんだ」
 須藤さんのことは覚えているのに、初めて会った日のことは覚えていない。
 秋斗さんは自分の携帯を取り出すと、メール受信フォルダと送信済みフォルダを手帳と照らし合わせながら、
「この日はこんなことがあって、だからこういうメールのやり取りなんだよ」
 と、本当に覚えている限りのことを教えてくれた。
 キスをしたとか、抱きしめたとか、聞いていて恥ずかしくなるようなことを、秋斗さんはとても嬉しそうに話す。
 私は恥ずかしくて、どんな顔をして聞いていたらいいのかわからない。
 気づけば、私は両頬を手で覆っていた。
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