光のもとでⅠ
 車に戻り時計を見れば三時半だった。
 今日は日曜日だし国道が混んでいれば家の近くまでは一時間近くかかる。
 でも、その分長く一緒にいられる。
 車の中ではアンダンテの最新作のタルトの話しや、蒼兄の高校のときの話を聞いた。
 会話が途切れたとき、
「髪飾り、使ってくれたんだね」
「……はい。今日が初めてで……。髪の毛とメイクは栞さんと湊先生がしてくれて……」
「なるほどね。なんかしてやれた気分だ」
 と、笑う。
「そのワンピースは? いつもとはちょっと違うよね?」
「両親からの誕生日プレゼントだったんです。私にはまだ少し大人っぽい気がしたんですけど……」
 不安から視線が手元に落ちる。
「そんなことないよ。すごく似合ってる。一瞬自分の目を疑うほどにはびっくりした」
「……これを着てきて良かった。年の差はどうやっても埋められないけど、見かけだけでも、と思って……」
「――今日の洋服やお洒落は俺のため?」
「……ほかに誰かいましたか?」
「…………翠葉ちゃんってさ、本当に何も計算してない?」
 計算……? 今の会話のどこに数字なんて――。
「あぁ、いい。なんでもない。少しでも疑った俺がバカみたいだ」
「……あの、全然意味がわからないんですけど……」
「わからなくていい。そのほうが君らしい。でも――俺は一生翻弄されるんだろうな」
 秋斗さんの苦笑いの意味はわからなかった。
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