光のもとでⅠ
 大切な人たちにあんな思いはしてほしくない。
 痛みを抱えるのは自分ひとりで十分だ――。
「俺はあらかじめ翠葉ちゃんがどんな状態なのかは聞いていたんだ。少しでもおかしいと思ったら距離を置くように言われていた」
 秋斗さんはほんの少しだけ左手に力をこめる。
「なのに、俺はその忠告も聞かずに近寄りすぎた。……踏み込みすぎたんだ」
 それはいったい――。
 秋斗さんの眉尻は下がったままだけど、目は凛としている。
 さっきまで少し前かがみで猫背だったのに対し、今は背筋を伸ばし私を見ている。
「俺が幸倉に着いたとき、翠葉ちゃんは眠っていたんだ。俺は君が目覚めるのを待っていた。君の部屋で、君のすぐ側で……」
 部屋の中がどんな状態で、誰がどこにいて――。
 そんなことまで細かく教えてくれる。
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