光のもとでⅠ
「その頃はまだ記憶は無くしてないのよね……?」
 白いお布団に視線を落としたまま訊くと、
「まだ無くしてはいない」
「私は……私は髪を切ったこと、どう思っていたのかな。……私はツカサに何か話した?」
「……人を傷つけたら自分が傷つく。人を傷つけたことに負い目を感じる。だから、大切な人をみんな遠ざけた。自己防衛も含めて遠ざけた。そしたら、自分は傷ついていないのに、遠ざけた時点でみんなを傷つけていた。そう言って、すごくつらそうにしてた。……それがこの日」
 ツカサの右手人差し指は七月三十日を指差した。
「この日に零樹さんが来たんだ。たぶん昇さんの勧めだと思う。この辺の翠の心情なら、昇さんや藤原さんのほうが詳しいと思うけど?」
 ……昇さんと真面目な話をした気はするのに、思い出せないのはこのあたりなのだろうか。
「昇さん呼んでくる」
「え……?」
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