光のもとでⅠ
 その夜は蒼兄がお素麺を茹でてくれて、それを少しだけ口にした。
「それしか食べないのか?」
「……ごめんね」
「ちょっと待ってろ」
 蒼兄は席を立つとキッチンへと入って行く。
 そして冷凍庫を開け電子レンジがジーと動く音がした。
 数分して戻ってきた蒼兄の手にはスープカップがあった。
 カップを差し出されて驚く。
「っ……!? 蒼兄、これっ」
 椅子に座ってにこりと笑う。
「栞さんのスープ。いくつか小分けにして冷凍してくれてるんだ」
 自分がいないときのこういう事態も想定済み?
「それだったら飲めるだろ? 少しは胃にものを入れておかないと。どんどん胃が小さくなってもっと食べられなくなるぞ」
「ん……これなら飲める」
 そう答えると、蒼兄が満足そうに頷いた。
 夕飯を食べたらお風呂に入る。そして上がってくると、私の部屋ではすでに寝る準備をしている蒼兄がいた。
 看護用の簡易ベッドをセッティングしているのだ。
 懐かしい……。
 退院してきた頃は必ず誰かが私の部屋で寝てくれていた。
 お父さんだったりお母さんだったり蒼兄だったり……。
 でも、ダントツお母さんと蒼兄が多くて、お父さんはいつも、「また負けた」ってしょんぼりしていた。
 お父さんはどうしてもお母さんには逆らえないみたいで、蒼兄にはどうしてか抑えこまれてしまうのだ。
 そんなお父さんはなんだかんだと家族に甘い。色んな意味で優しい人なんだろうな、と思う。
< 273 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop