光のもとでⅠ
 部屋に戻ってきた私に気付くと、
「ちゃんと髪の毛乾かせよ」
「うん。お風呂お先にいただきました」
「俺も入ってきちゃうから」
 と、部屋を出ていった。
 念入りに髪の毛の水分をタオルで吸い取って、それからドライヤーを頭のほうから順に乾かしていく。
 長いなぁ……。そろそろ切り時かな。
 夏場にドライヤーをかけるのもちょっとしんどいし……。
 でもな……この髪をすごく好きだと言ってくれた秋斗さん。それが引っかかって切れないでいるのも確か。
 髪の毛を乾かし終えると、ダイニングの棚から薬を取り出す。
 交感神経を抑えこむ薬。
 これを飲みはじめたら二週間は地獄だ。
 明日の学校は厳しいかもしれない。
 薬一式を持って自室に戻るとグラスに水を注ぎ、ローテーブルに薬と並べて置く。
 ラグに座り込んでそれらを疎ましく見てしまう。
 けど、もう限界なんだ。本当はもう少し前から飲み始めなくちゃいけなかった。痛みが本格的に出てくる前に。
 それを自分の都合で遅らせたのだから、これは守らなくちゃいけない約束。
「飲むの躊躇ってるのか?」
 ドアの方から首にタオルをかけた蒼兄に訊かれる。
「ううん、躊躇ってるわけじゃないよ。ただ。やだなって思っただけ」
「そうか……。明日学校は?」
「……行けるなら行きたい」
「それでいいよ。行ってみて無理なら保健室で寝かせてもらえ。湊先生には俺から話しておくから」
「それでいいのかな……?」
「それでいいんだよ」
 本当にそれでいいのだろうか。迷惑がかからないだろうか。
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