光のもとでⅠ
「翠葉、秋斗のこと振ったんですって?」
 不意に投げられた質問に驚く。
「あの――」
「どうして? あんた秋斗のこと好きでしょう? あのバカ、どうしようもないヤツだけど、収入や仕事の出来、将来性は何を取っても文句のつけようがない人間よ? しかも翠葉に首っ丈」
 言われて少し頬が熱を持つ。
「でも、そんな人だから、です。私じゃだめ……」
「意味わかんないわね」
「私と秋斗さんじゃつり合わない……。私は子どもなんて産めるかわらかないもの……」
「それ、翠葉の考え?」
「はい」
「それはおかしいわね。どう考えても十七歳の子が考えることじゃないわよ? 出産なんて今から考えること? 言うなれば――翠葉、あんた雅に会ったのっ!?」
 あぁ、湊先生は知らなかったんだ。じゃぁ、知っていたのは司先輩と秋斗さんだけ?
 ……自分で地雷を踏んでしまった気分だ。
「検査の日――病院の中庭でお会いしました」
「……あとで秋斗のやつ締めておかないと気が済まないわね」
 先生は真面目な顔でそう言った。でも、すぐに私へ向き直り、
「雅の言ったことなんて気にしなくていいのよ?」
「違うんです。気にしてるとかではなくて、言われたことを納得してしまったんです。だから……」
「それじゃ、この先恋愛はしないつもりなの?」
 それは考えなかった。
「気持ちがどう動くのかは私にもわからなくて……。だから、また誰かを好きになるかもしれないし、このまま秋斗さんを好きでいるのかもしれないし……。でも、付き合うとかそういう選択肢は浮かばないでしょうね。見ているだけでいいです。時々お話ができるだけでいいです」
「欲なさ過ぎ……」
「ないほうが楽。あれもこれもって求めてしまうのは自分がつらくなるから」
「ネガティブね」
「いつもは半強制ポジティブを繕ってるだけですから」
「しょうがない子ね……。薬持ってくるから待ってなさい」
 と、またカーテンから出ていった。
 私は残りのシュークリームを頬張る。
 口の中に残る甘い余韻に恋愛が重なる。
 正直、もう誰も好きになりたくない。恋愛は、貪欲な自分ばかりを目の当たりにする羽目になって、怖い――。
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