光のもとでⅠ
 あのマンションのつくりは4LDKだから、もう一部屋客間があってもおかしくはないけれど……。
 でも、ここまでの好意を受け取っていいのか、私には判断ができない。
 というか、ここまで甘えたらいけない気がする、というのが正直なところで、どちらに針を振ったらいいのかがわからないのだ。
 甘えるのは怖い。その手をいつか放さなくてはいけないときがくることを想像せずにはいられないから。
 そんなのは杞憂だってみんなは言ってくれるけど、これはいわばパブロフの条件みたいなもので、刷り込まれている分、簡単には払拭できない。
 中学のときとは環境が違う。違いすぎるゆえに順応しきれていない部分も多いのかもしれない。それでもやっぱり――。
 優しい人たち、自分の大切な人であればあるほどに、今は自分の側にはいてほしくない。
 その人たちを傷つけるような言葉をいつ吐いてしまうかわからない。だから、できるだけ誰にも会いたくないし、誰のもとにもいたくない。
 消えてしまいたい――。
 そう思った瞬間に涙があふれ出てきた。
 まただ……。また、私はそんなことを考えてしまう。
 涙を手の甲で拭ったとき、カーテンが開いた。
 湊先生かと思ったら違った。
「今度はなんで泣いてるの?」
 司先輩……。
「俺にはろくでもないことでも、翠にとっては大切なことなんだろ?」
「……なんでもないです」
「下手な嘘。隠したいならもっと練習したほうがいいと思うけど?」
 司先輩らしい言葉に相変らずだな、と思って見ていると、
「簾条たちが荷物を持ってきたら送っていくけど、歩けそう?」
「……立ってみないことにはなんとも……」
「ま、それもそうだな」
 そんな話をしていると湊先生が入ってくる。
「もし無理でも崎本さんが迎えに来てくれるわ」
 崎本さん……?
「マンションのコンシェルジュ統括者よ」
 湊先生の言葉に司先輩が補足説明を加えてくれる。
「マンションには常にふたり常駐していて、藤宮の人間においてはこういう対応も仕事のうちに入っている」
 本当にビップ待遇なんだなぁ、と思ったのは言うまでもない。
 そんな話を聞きつつ呆然としていると、桃華さんたちが保健室にやってきた。
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