光のもとでⅠ
「質問、こんなに釣ってどうするつもり?」
 意外なもので、素人ふたりだというのに、すでに二十匹近く釣れていた。
「昼に食べて少し稲荷さんたちに残して、あとは持って帰って真白さんところかな?」
「あっそ……」
 少し沈黙してから、
「なぁ……翠葉ちゃん、具合どう?」
「……今は比較的落ち着いてる。入院前に比べたら多少は体重も戻ったと思う」
「そっか……取り乱したりしてない?」
「してない。なんか、記憶を無くす前よりも元気っていうか、積極的っていうか、驚かされることが多い」
「そっか……」
 会いたいとは言わない。
 けど、ひしひしと伝わってくる想いはただひとつ――「会いたい」だ。
 翠は出来事を聞いたからといって思い出すことはないといっていた。
 ならば、秋兄を会わせても問題はないんじゃないだろうか。
 帰ったら――帰ったら訊いてみよう。
 秋兄に会わないか、と――。
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