光のもとでⅠ
「だから?」
 翠を見れば、不安に瞳が揺れていた。
「逆に、時間をかけても思い出せるわけじゃないんだろ? なら、知識として頭に入っていればそれでいいんじゃないの?」
 こういうときにこそ、何かを言えばいいものを。
 翠が手を伸ばしたのは最初だけだ。
 話を聞いたら側にいられなくなるのかと不安がったり、手をつなぎたいと言ってみたり、同じ室内にいるにも関わらず、遠くにいないでほしいと言ってみたり――。
 こっちが勘違いするようなことをいくつもいくつも……。
「異論がないなら次」
 ふたりの言い分は聞かずに先を続けた。
 翠の手はだんだん力がこもっていき、こめかみを押さえる回数もしだいに増えた。
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