光のもとでⅠ
「広い……」
 栞さんの家、湊先生の家、秋斗さんの家、十階の静さんの家、と全部見てきたけれど、この部屋のつくりが若干違う。
 フローリングは栞さんの家と同じパイン素材。
 壁も白いので、全体的に広く感じる。
 ただ、十階の部屋とはインテリアに使われている色味が違った。
 カーテンやクッションカバーは淡いラベンダーカラーで、ほかには淡いピンクやペールグリーンなどと調和させてあるあたり、ハーブ園を連想させる。
 リラクシングルーム、そんな感じ。
 ラベンダー畑とまではいかないけれど、そのくらいに爽やかさと華やかさを兼ね備えている空間だった。
 九階のキッチンはほかの部屋とは少し違う。キッチンは独立されていてL字型のようだ。
 普通の家庭用カウンターというわけではなく、少しスペースを取ってカクテルなどお酒や飲み物を作るバーカウンターが設けてあった。
 廊下の先はきっと十階の部屋と変わりないのだろう。
 違うことといえば、リビングから直接入れる部屋。主寝室がリビングダイニングと一体化していること。
 ゆえに、リビングダイニング、プラスアルファで二十五畳……もう少し広いかもしれない。
 仕切りができるように引き戸が壁際に収納されていて、半分くらいには分けられるようになってるみたいだけど……。
「リビングダイニング、主寝室がワンフロアになってるんですね」
「そう、ここは仕事関係の人間が集まることもある場所だから、主寝室はいらないんだ」
 静さんは中途半端に閉まっていた間仕切りを完全に開ける。と、間仕切りの奥にあったのは大きなグランドピアノ、スタインウェイだった。
 それと、部屋の隅にはテーブルや椅子が積み重ねられており、手前のフロアにはかなり大きめのソファーセットが置かれている。
「人を泊らせるにしても二、三部屋あれば十分だ。たいていの人間は帰るからね」
 言いながら、ピアノの前まで歩みを進め振り返る。
「調律は半年に一度はしている。ま、誰も弾いていないからどんな状態かはわからないが……。幸い先月調律を済ませたばかりだ」
 と、ピアノの蓋を開けた。
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