光のもとでⅠ
 携帯が水没したとか、風邪をひいていたとか、そういうのは一切なしで、とりあえず謝りたいと思った。
 そしたら、翠は急に身体を起こそうとする。
 何を言おうとしたのかは予想がつく。
 でも、今がどうとかそういうことではなく、急に起きるのは厳禁だったはずなんだけど。
「吐き気、ひどいんだろ? 無理して起きなくていい」
 指先に届いた額を軽く押しただけで、翠はベッドにポスン、と倒れる。
 身体に力が入らないほど具合が悪いのだろう。
 俺のしたことが不満なのか、翠は少し顔を歪めた。
 翠の表情は口で話す以上に雄弁に語る。
 けど、俺は時にそれを読み違えたり、読めなかったりするんだ……。
 全部わかったつもりでいると自分が痛い目を見る。
 そんなのはもうたくさんだ。
< 3,056 / 10,041 >

この作品をシェア

pagetop