光のもとでⅠ

10

 ピアノを弾き終わると、静さんが玄関寄りの部屋を案内すると言ってくれた。
 今は蒼兄が付き添ってくれている。
「こっちの広い部屋は蒼樹くんが使うことになった。後日パソコンを運び込むことになっている」
 その部屋は湊先生のおうちでいう司先輩の部屋だった。
「本当に、何から何まですみません……」
 蒼兄が頭を下げる。
「家からパソコンを持ってくるの?」
 蒼兄に訊くと、
「そうするつもりだったんだけど……」
 と、頭を掻く。
「それじゃ何かあって家に戻ったときに何も作業ができなくなるだろう? だからと言って、そのたびにパソコンを持ち運びするのも能がない。だから、明日、若槻に適当な機材を運び込ませて、幸倉のパソコンと連動させるように設定させるつもりだ」
「……若槻さんって、この間お会いした……?」
「そう。彼は秋斗のもとで仕込まれてきただけあって色々使い勝手がいいんだ」
「翠葉は若槻さんに会ったことがあるのか?」
 蒼兄に顔を覗き込まれる。
「うん、一度だけ。打ち合わせのときに少し……」
「そうなんだ。怖い人じゃない?」
 怖い人……?
「明日、一緒に作業することになってるんだけど、何分こっちの都合ばかりで申し訳ないというか……」
 それを言われたら、自分の都合ばかり大賞は私だと思う……。
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