光のもとでⅠ
 先ほどのフロアに戻ると、みんなはすでに十階へと引き上げていた。
 十階では各々違うものを手に飲んでいる。
 司先輩だけがリビングにいて、本の続きを読んでいるみたい。その前に置かれているカップにはきっとコーヒーが入っているのだろう。
 お父さんとお母さんはダイニングテーブルで切子ガラスを手に持っていた。だからきっと、飲んでいるものは日本酒。
「ふたりは何を飲む? 翠葉ちゃんはハーブティーよね? 蒼くんは?」
 キッチンへ行く栞さんに静さんが声をかける。
「栞、翠葉ちゃんが心配なら栞もこっちに泊ったらどうだ?」
「やぁね、静兄様。私は蒼くんほど心配症じゃありません。それに、十階と九階よ? 行き来するくらいなんともないわ」
 と、鈴を転がしたような声でクスクスと笑った。
「あれ……? 湊先生は?」
 気づけば港先生の姿だけがなかった。
「湊は酔うとすぐに寝ちゃうのよ。今はこの家の客間で休ませてるわ」
「「意外……」」
 私と蒼兄の声が重なる。
 ふたり顔を見合わせて肩を竦める。
「お酒、すごく強そうなイメージあるのにね?」
「俺もそう思ってた。ひとりで酒瓶抱えてそうっていうか、酒豪のイメージ」
 司先輩が本から顔を上げ、
「よく言われる。けど、あの人本当に酒弱いから。飲んでるところ見かけたら止めてもらえると嬉しい」
 それは大丈夫なのだろうか……。
 少し心配になる。すると栞さんが、
「湊は翠葉ちゃんみたいにアルコール負耐症というわけじゃないの。本人もアルコール自体は好きだし一応飲めるのだけど、何分、分量を飲まずに酔えちゃう食費に優しい体質なの」
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