光のもとでⅠ
 ダイニングの様子を見ると、お父さんはすでに出来上がっていて、お母さんは上機嫌でニコニコとしている。
 蒼兄はお父さんをそろそろ寝室へ運ぼうか悩んでいる顔。
「翠、飲み終わった?」
「あ、はい」
 最後の一口を慌てて飲み下す。
「じゃ、行こう」
 先輩は立ち上がると私の前まで来てくれ手を差し出してくれる。
 もう、何を考えることなくその手を取ることができた。
 ゆっくりと立ち上がるけど、やっぱりだめね……。
「先輩ごめんなさい、少しだけ――」
「それ、もう言わなくていいから」
「……でも、この手は私にとっては当たり前にある手じゃないんです。すごく頼りになる手で、どこにでもあるものじゃないから……だから、言わないとなくなっちゃいそうなの」
「翠葉ちゃんらしいわね。でも、その手はなくならないと思うわ」
 栞さんに言われて、不思議に思う。
 視界が回復すると、
「でしょう?」
 と、栞さんが司先輩に訊いた。
「そうですね。なくなることはない……。ただ、翠がどう思うのかは翠の勝手ですけど」
 少し突き放したような物言いをするけれど、この人は優しい……。
「司、悪いけど翠葉のこと頼むな」
 蒼兄が声をかければ、
「司くん、翠葉のことよろしくね」
 と、お母さんも言葉を添えた。
「はい。……翠、行ける?」
「大丈夫です。少し、気持ち悪いだけ」
「栞さんの家までは?」
「歩けます」
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