光のもとでⅠ
 きっと、すてきな看護師さんだったのだろう。
 どうしてやめてしまっただろうか……。
「栞さんはどうしてお仕事を辞めてしまったんですか?」
「……そうね、これも話しておこうかしら?」
 珍しく栞さんが言いづらそうな顔をした。
「その代わり、少し心構えしてもらえる?」
 心構えが必要な話ってなんだろう……。
「私、二年前に妊娠したんだけど、仕事にかまけて流産しちゃったの。そのとき、ちょっと体調崩してね、休職してたのだけど、一度辞めてのんびりするのもいいかなと思って思い切ってやめちゃったの」
 流産――赤ちゃん……?
「っ……!? やだ、翠葉ちゃん泣かないでっ?」
 気づけば頬を伝って涙が耳の近くまで流れていた。
「ごめんね。やっぱり聞く方も少なからず衝撃がある話よね」
 と、流れた涙を拭いてくれる。
「無神経に訊いてしまってごめんなさい……」
 私が自分で訊いたのに……。
「翠葉ちゃん、そうじゃないわ。翠葉ちゃんに話すと決めたのは私よ? 訊いたから悪いとか話したからどうとか、そういうことじゃないの」
 言いながらもスプーンを運ぶ手は止めない。
「そのときは確かにつらかった。それから半年くらいは体調ももとに戻らなかったし……。でも、いつでも昇が支えてくれたわ」
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