光のもとでⅠ
 また、カランコロン、という音が近づいてくると、
「はい、ストロー」
「ありがとうございます」
 と、やり取りが聞こえる。
「翠葉ちゃん、少し飲みましょう?」
 優しい声が顔に降ってきた。きっとすぐ近くに栞さんがいる。
 薄く目を開け、口もとに近づけられたストローを口に含んだ。
「翠葉、少しずつだけど血圧も戻ってきてる」
 その声に、あと少ししたら吐き気が引く、と強く自分に言い聞かせる。
「栞さん、よろしかったら今日一日高崎を使ってもらってもかまいませんよ?」
 聞いたことのない声だった。
「そうよそうよ。このままここにいてもね? 引越し業者の時間もあるんでしょう?」
 これは美波さんの声。
「でも、いいのかしら? 手伝ってもらえたら助かるけれど、五時過ぎくらいまでは返せなくなっちゃいますよ?」
「大丈夫です。今日は美波もいますから。こちらの業務には支障ありません」
 とても誠実そうな声がした。
 この人が美波さんのご主人で、崎本さん、なのかな?
 めぐりの悪い頭で一生懸命考える。
「じゃ、甘えちゃおうかしら……?」
「甘えて甘えて!」
 と、元気な声が返ってくる。そして、
「翠葉ちゃん。今度ゆっくり会いましょうね」
 と、自分に声をかけられた。
 私は頷くことしかできなくて、なんだかとても申し訳なかった。
「じゃ、蒼くん行きましょう。高崎くん、ナビで御園生って入れると目的地が出るから。はぐれても大丈夫よ」
 言うと、あちこちでドアの閉まる音がした。
「翠葉、シートベルトだけはしておこうな」
 と、蒼兄がシートベルトを締めてくれる。
「翠葉ちゃん、きっと二十分くらいで着くと思うけど、それまでがんばろうね」
 栞さんの言葉に、またひとつ頷いた。
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