光のもとでⅠ
「準備はこれで全部かな……」
 デジカメはマンションに持っていってあるし……。
「じゃ、ぼちぼち行きますか」
「うん!」
 幸倉駅までの徒歩二十分の道のりはタクシーを使った。
 本当は歩きたかったけれど、「微熱あるでしょ」と言われて口を噤む。
 久しぶりの幸倉駅には光陵の制服を着た生徒が数人いた。
 知らない人ならいい。でも、知ってる人には会いたくない――。
「リィ……?」
「……あのね、中学のときの同級生が苦手なの。うちの中学、ほとんどの人が光陵高校に進学してるから――」
「わかった。とっとと通り過ぎちゃおう」
 手をつながれ、唯兄に引っ張られるようにしてホームまで歩いた。
 何事もなく通り過ぎたというのに、私の身体はカチコチに固まっていて、ホームのベンチに着くと、
「ほら、深呼吸」
 と、唯兄に促される始末だった。
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